中国の最高指導者は誰か

 

日本のメディアでは、中国のリーダー(最高領導人)である習近平氏の肩書きは「主席」或いは「国家主席」ですが、中華人民共和国において「国家主席」とは、実は必ずしも最高指導者を示す肩書きではありません。

 

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画像出典:newsweek

 

中国の国家主席は英語では「President」と訳され、対外的には国家を代表するトップである事に違いはないのですが、過去には最高指導者ではない人物が主席を務めた例もいくつかあります。また、文化大革命の時代には、国家主席のポストが廃止された時期もありました。これは劉少奇が国家主席在任中、毛沢東から「実権派(走資派)」として猛烈な攻撃を受け、党内外のすべての職務から罷免、共産党からも除名され、苛烈な迫害の末に死に至らしめられた事によります。1970年に毛沢東は国家主席を廃止し、副主席が代行するという形が10年以上継続しました。国家主席が復活するのは、鄧小平が中華人民共和国憲法を改正した1982年のことです。

 

一般的に近年の中国の最高指導者は、

 

①共産党中央委員会総書記:中国共産党のトップ

②国家主席:中華人民共和国のトップ

③中央軍事委員会主席:人民解放軍のトップ

 

この3つのポスト全てを兼務することが慣例となっています。ただ、この慣例の歴史は意外と浅く、90年代の江沢民から始まって、胡錦濤、そして現在の習近平でまだ三人目です。それまでは別々の人物がそれぞれのポストを務めたり、上述のように廃止されている時期もありました。

 

中国で一番”偉い”ポスト?

 

さて、いまは総書記・国家主席・中央軍事委員会主席と3つのポストを兼任するのが慣例になっていますが、中華人民共和国は、共産党の「领导(指導)」のもと運営される国家なので「共産党のトップが国家のトップ」と言う意味では、共産党のトップである総書記が一番”偉い”と言う事もできます。

 

しかし3つめの「中央軍事委員会主席」について、歴代そのポストを務めた人物を列挙してみると、どうでしょうか。

 

毛沢東 (1954年9月26日 – 1976年9月9日)
華国鋒 (1976年10月7日 – 1981年6月29日)
鄧小平 (1981年6月29日 – 1989年11月9日)
江沢民 (1989年11月9日 – 2004年9月19日)
胡錦濤 (2004年9月19日 – 2012年11月15日)
習近平 (2012年11月15日 – )

 

まさに権力の頂点を極めた人物ばかり。鄧小平に至っては、長らく最高指導者の地位にあったにもかかわらず、総書記や国家主席を務めた事は一度もありません。彼は文革色の強い華国鋒を失脚させたのち、胡耀邦を総書記に、趙紫陽を総理に任命してトロイカ体制を敷き、久しぶりに復活させた国家主席のポストには李先念を就かせましたが、軍だけは自らの手で掌握しました。

 

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画像出典:Wikipedia

 

 

 

また、毛沢東は大躍進政策の失敗の責めを負った際にも、国家主席の座は劉少奇に譲りましたが、中央軍事委員会主席には留まりました。更には、共産党第3世代の頂点を極めた江沢民も、次の第4世代である胡錦濤が国家主席と総書記に就いたあとも、中央軍事委員会主席の座を最後まで譲りませんでした。

 

中国では、軍を掌握するということは、特別な意味を持ちます。

 

人民解放軍は、共産党の軍隊である

 

人民解放軍は「シビリアンコントロールではなく、パーティー(党)コントロールである」とよく言われます。その由縁は、中国の国防法にあります。

 

中国の国防法では、

 

第十九条 中華人民共和国の武装力量は中国共産党の指導を受ける。武装力量の中の中国共産党組織は中国共産党規約に従って活動を行う。(第十九条 中华人民共和国的武装力量受中国共产党领导。武装力量中的中国共产党组织依照中国共产党章程进行活动。)

 

とあります。

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↑人民解放軍の軍旗や帽章にある「八・一」は、、1927年8月1日に中国共産党が江西省南昌で起こした「南昌起義」という武装蜂起を記念しております。(画像出典:Wikipedia)

 

中国においては軍人は非常に権限も大きく、また日本の自衛官も近年は災害救助などでの活躍があり、大いに尊敬を集める職業になりましたが、中国における軍人はそれ以上に社会的地位の高い職業だと言えます(もちろん階級によりますが)。

 

中国における「総理」とは?

 

日本では総理と言うと内閣総理大臣、すなわち日本のTOPを意味しますが、中国の総理(ゾン リー)は少し、というよりかなり意味や職掌が変わってきます。中国では行政府つまり日本の内閣のことを「国務院」と言い、その長が総理と呼ばれます。そしてこの国務院総理は、国家主席が指名できると憲法で定められ、中国共産党序列2位の人物が務める慣例となっています。

 

中国において、歴代の国家主席と国務院総理は、二人三脚で国家運営を進めてきました。一般的に国防や外交そして国家の最終意思決定を国家主席が、経済を始め幅広い内政全般を総理が務めます。毛沢東に周恩来、江沢民に朱鎔基、胡錦濤に温家宝、そして現在の習近平に李克強といったように、強烈なリーダーシップで国家を指導する国家主席のかたわらで、しっかりと内政を固める女房役、ナンバーツーが総理といって良いかと思います。

 

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↑現在も続く習李体制(画像出典:wikipedia)

 

これまで国家主席は2期までとされていましたが、2018年に全人代は国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正を承認しました。これにより、習近平氏が長期にわたって国家主席の座にとどまることが可能になります。いっぽうで、第5世代である習近平・李克強の次の世代、すなわち第6世代とよばれる胡春華氏(国務院副総理)や陳敏爾氏(重慶市党委書記)も台頭しています。私はふだん台湾と関わることが多いですが、中国大陸の政治にも目が離せません。

 

  1. くろ より:

    世界から嫌われる中国。
    世界の技術や人材を騙してパクって発展したかのような国!公海を勝手に埋め立てし島を作り、我が日本の領土たる尖閣諸島にまでも手を出そうとする!
    ならず者国家!
    こんな国のことを考えるのも汚らわしい!

  2. 台湾大好き より:

    相手の事情や背景を理解したうえで双方にとって利のある道を選択することが正しいと思います。
    武力による一方的な現状変更には反対ですが、過去の歴史を振り返っても弱い国が攻められるのは必然。
    日本人の私から見て、台湾人の方々は温厚で礼儀正しく、そしてとても聡明だと思います。
    軍事力で大差があっても中国が侵攻できず、しっかりと交易できる秘訣を日本も学ばなければならない。

  3. 名無しさん より:

    たまたま検索で見かけた記事だったのですが、中国の政治システムについて理解が捗る記事だと思いました。
    習近平氏が「武力統一を排除しない」と発言したことは残念に思いましたが、双方の納得の行く関係づくりへの道筋はまだ絶たれていないと思います。中国の政治姿勢に思うこともありますが、中国の文化など、触れてみたい・学んでみたい分野は多々あります。
    悲しみを生むような衝突ではなく、うまくいい関係に収まれることを願います。

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プロフィール

代表取締役
吉田皓一
奈良県出身。防衛大学校を経て慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日放送入社。総合ビジネス局にてテレビ CM の企画・セールスを担当したのち退職。
2012 年㈱ジーリーメディアグループ創業。台湾人香港人に特化した日本観光情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営する。HSK漢語水平考試6級(最高級)及び中国語検定準1級所持。台湾にてテレビ番組やCM出演、雑誌コラムの執筆、台湾でチャンネル登録18万人のYouTube「吉田社長JapanTV」運営なども行う。日本酒輸出、台灣交通部(国交省)Taiwan Pass Project顧問。
2018年より北海道FM northwave「メイリー!台湾」メインパーソナリティとして台湾の魅力を発信中。